溶接ヒュームの危険性とヒューム微粉塵の集塵による利点
公開:2024.05.07 更新:2024.04.30
溶接ヒュームは、金属加工過程で発生する微粒子であり、特にマンガンを含む溶接ヒュームは健康リスクを引き起こす可能性があります。これに対し、ヒューム微粉塵の集塵は、作業環境の改善と作業者の安全を確保する重要な手段です。溶接ヒュームによる呼吸器系の疾患や健康リスクを最小限に抑えるためには、適切な集塵装置の導入が不可欠です。
目次
ヒュームとは?主な種類と特徴
ヒュームとは、工業プロセスや加工作業に伴って発生する微粒子や微細な粒子のことを指します。これらのヒューム微粉塵は、燃焼や溶接、研削、加工などの作業中に発生し、空気中に浮遊して有害な影響を及ぼすことがあります。ヒュームの主な種類と特徴を以下で解説します。
◇ヒュームとは
「ヒューム」とは、固体物質の蒸気が凝固してできる微細な固体粒子のことです。溶融金属の表面から発散する金属蒸気は高温であり、その蒸気は空気中で冷やされてすぐに凝固し、液体から固体の金属微粒子に変化します。ヒュームは粉じんのように容易に沈降せず、⾧時間空気中に浮遊しており、一度吸い込むと排出されず体内にどんどんと蓄積していくので大変危険な物質です。
◇ヒュームの種類と特徴
代表的なヒュームは3種類あります。
金属ヒューム
金属ヒュームは、アーク溶接や金属精錬、鋳造などの作業中に溶融金属から発生します。溶融金属の表面から発散した金属蒸気が空気中で冷えて凝固し、固体の微粒子となります。
鉛ヒューム
鉛ヒュームは酸化鉛の粒子であり、溶接ヒュームには主に酸化鉄の粒子が含まれます。また、溶接に用いる金属に含まれるマンガンによって、酸化マンガンや三酸化ニマンガンなどの酸化物が生成されることもあります。
溶接ヒューム
溶接作業中に発生する微細な金属粒子や金属酸化物の粉塵のことを指します。主に酸化鉄の粒子が含まれますが、溶接される金属の母材にマンガンが含まれている場合、塩基性酸化マンガン(酸化マンガン(MnO)、三酸化ニマンガン(Mn2O3))も含まれることがあります。
特定化学物質に追加された溶接ヒューム
画像出典先:フォトAC
特定有害物質とは、土壌汚染対策法において、人の健康に被害を及ぼす可能性がある物質として指定されたものです。これらの物質は、特定の作業現場や産業プロセスにおいて、特に注意が必要な化学物質です。その中でも、溶接ヒュームは金属加工業界において顕著な問題となっています。
◇溶接ヒュームとは?
溶接ヒュームは、金属アーク溶接などの作業中に発生する有害な物質で、特にマンガンが含まれることが問題視されています。マンガンは神経障害や肺がんなどの健康リスクを引き起こす可能性があります。
溶接ヒュームは、アーク溶接時に金属が溶け、その蒸気が大気中に放出され、急激に冷やされて酸化し、微粒子に変化します。これらの微粒子は白い煙のように見え、中毒性があります。金属アーク溶接作業中に、アークを用いて金属を溶断すると、溶けた金属が熱によって蒸発し、この蒸気が空気中で冷却され、金属酸化物の微細な粒子になる現象を「溶接ヒューム」と呼びます。
◇溶接ヒュームの危険性
溶接ヒュームは一度吸い込むと体内に蓄積され、排出されないため、注意が必要です。長期間にわたって体内に取り込まれると、気管支や肺胞内に溶接ヒュームが蓄積され、金属熱等の急性中毒やじん肺、肺がんなど呼吸器系の病気が発症する危険性が高まります。
◇じん肺について
じん肺は、鉱物や金属、研磨材などの微細な粉じんを長期間吸い込むことによって、肺に沈着して引き起こされる病気です。この病気は、粉じんの発生する作業環境で働く人々に見られる職業性の肺疾患の一つです。
肺に粉じんが沈着すると、肺の組織が繊維化して弾力性を失い、進行性の肺疾患を引き起こします。特に、じん肺は離職しても回復せず、むしろ悪化することがあります。このため、粉じんの吸入を中止しても注意が必要です。
◇特定化学物質に追加
金属アーク溶接などの作業中に発生する溶接ヒュームに含まれるマンガンが、神経障害や肺がんなどの健康リスクを引き起こす可能性が明らかになりました。このため、令和3年4月1日からは、溶接ヒュームが特定化学物質として規制され、作業中のばく露防止が義務付けられました。
新たな規制により、金属アーク溶接を行う屋内および屋外の作業場では、全体換気装置の設置や有効な呼吸用保護具の使用が必要とされます。また、特定化学物質の濃度測定や、マスクフィットテストの実施なども義務付けられました。
国際がん研究機構(IARC)が溶接ヒュームを発がん性がある物質に分類したことも背景にあります。特に、溶接ヒュームに含まれる塩基性マンガンは神経障害のリスクが明らかにされ、それによって特定化学物質としての規制が導入されました。
溶接ヒューム微粉塵の有効な対策は?
溶接作業は重要な工程の一つで、数多くの作業現場でおこなわれています。作業員の安全と健康も確保するためにも溶接ヒューム対策は不可欠です。
◇溶接ヒューム集塵機等の導入
ヒュームコレクターは、溶接ヒュームコレクターや溶接ヒューム集塵機とも呼ばれますが、その用途はほぼ同じです。作業時に発生する有害な煙やヒュームを除去し、作業者の安全と健康を守ることが目的です。
ヒュームコレクターは、アーク溶接や他の作業中に発生する有害なヒュームを安全に集めるための装置です。主な役割は、空気中に浮遊する煙やヒュームを吸引して除去することです。これにより、作業者の健康や安全を守ることができます。
ただし、ヒュームコレクターには注意すべき点もあります。それは、溶接ヒュームに含まれるスパッタ(火花)を吸引し、火災の原因となる可能性があることです。そのため、ヒュームコレクターには捕集ユニットと防火ユニットが内蔵されており、火災を防ぐ仕組みが備わっています。
◇換気対策や局所排気装置の導入
金属アーク溶接などの作業を行う場合、屋内作業場では作業場全体を換気できる大型集塵機を使用するか、もしくは同等以上の換気措置を設置が必要です。
全体換気装置は工場や作業場全体の空気を換気・排気するための装置であり、有圧換気扇や吸引ダクトだけでなく、大型シーリングファンも含まれます。局所排気装置は工場や作業場、実験室などで発生する有害物質を作業者が吸い込まないようにするための装置であり、粉じんや有機溶剤、ガスなどを屋外に排出するのが目的です。
他にも、ヒュームの発生源を吹出しフード(プッシュフード)と、吸込み(プル)で挟み込んで吸引するプッシュプル装置は、吹出しフードから緩やかな気流を出すことで、ヒュームを吸込み側に運び、吸込フードから横流れしないようにします。
屋内作業場では、全体換気装置の導入、または同等以上の措置を実施する必要があり、そして、空気中の溶接ヒューム濃度を測定するために、個人ばく露測定が義務付けられています。
そして作業員は濃度測定の結果に基づき、適切なマスクなどの呼吸用保護具の使用が義務付けられています。
溶接ヒューム集塵機の効果
溶接ヒュームコレクターは、溶接ヒュームを吸引して回収する装置であり、換気設備と同様にヒュームを蔓延させるリスクを軽減します。そのため、溶接作業員だけでなく周囲の人々の安全と健康、そして作業環境の清潔さを確保する役割が期待できます。
なぜなら、マスクやゴーグル、エプロンなどは個人を溶接ヒュームから守る効果はありますが、作業環境全体の改善になりません。一方、換気設備は溶接作業によって発生した煙やヒュームを作業者から遠ざける効果がありますが、その反面、煙が蔓延して周囲に影響を及ぼす可能性もあります。
溶接作業場における溶接ヒュームの濃度を効果的に減少させるためには、全体換気装置の導入が必要です。さらに、プッシュプル型換気装置や局所排気装置の活用も有効で、これらの装置を使用することで、ヒューム濃度を管理し、作業環境を改善できるでしょう。
ヒュームは工業プロセスや加工作業に伴う微粒子で、金属アーク溶接などの作業で主に発生します。これら微粒子は吸入すると体内に蓄積し、呼吸器系の疾患や健康リスクを引き起こす可能性があります。
特に溶接ヒュームに含まれるマンガンは神経障害や肺がんのリスクがあり、そのために特定化学物質として規制されました。溶接ヒューム対策としては、溶接ヒューム集塵機や局所排気装置の導入が効果的であり、作業環境の改善と作業者の安全を確保する重要な手段です。
さらに、作業員は個人ばく露測定の結果に基づき、適切な呼吸用保護具の使用が義務付けられています。これらの対策を適切に実施することで、溶接作業に伴う健康リスクを最小限に抑え、安全な作業環境を確保できます。